ある日の放課後
自然学校が終わり、誰も知らなかったあの歌は少しずつ学年の子どもたちに広まっていった。
教室の前を歩く他のクラスの子が口ずさむのを聴いたり、You tubeにある『言葉の力』のMVを見たという話題を耳にするようになってきたのだ。何となく授業にしておいて良かったなと僕は感じていた。
ある日の放課後、学年の先生たちと打ち合わせをしていた。
次の総合的な学習の単元作りの相談であった。
隣のクラスの先生が用意していた授業の柱は『職業観に触れる』といったものであった。
何かに想いを込めて働く人の姿を映像や資料をもとに知ることで、自分のこれからの生き方に繋げるような授業作りである。
ただ、やっぱり映像や資料よりも『生』の人の声を聞くことで子どもには伝わるのではないかと考えた僕たちはゲストティーチャー探しを行った。
すると、たまたま当時の教頭先生の教え子に車いすで陸上競技に取り組む方がいらっしゃるということで紹介してもらえるということになった。
ゲストが学校にやってくる
そして、子どもたちはいよいよゲストの方にお話を聞く機会をいただいた。
決して落ち着いた子たちといった子たちでは無かった子どもたちであったが、その日は、表情を見るだけでも真剣な気持ちが伝わってきた。
ゲストの方は、事故で体が動かなくなった時の気持ちや、自分の練習方法、今の目標などを丁寧にお話してくださった。
その時、僕は僕たち教師の言葉の限界を少し感じた。
もしかしたら、ある種自分たちの価値に酔っていたのかも知れない。僕らの教師の仕事は何かをこんこんと伝え続けることでは無かったのだ。
大切なタイミングで価値のある『教材』を提供し、一緒に向き合う。
すると子どもたちは少しずつ自分たちを『成長』させる材料にしていくのだと強く思った。
「また、誰か来てくれないかなぁ…」
そこから、人を探す訳だが、僕の頭の中にはもうその答えは1人しかいない。子どもたちに分かりやすく色々なモノを伝えてくれる人。
Singer RAY しか浮かばなかった。
ただ、こういうモノは知り合いとか、人のツテがあって成立するものだ。僕にはツテなんか1つもない。
あるのは余りある行動力と突然生まれる閃きだけだ。
「そうだ。FacebookとかにDMとか問い合わせ先があるな。そこに思いの丈を全て書いてみよう。」
ただ、すぐには返信が無い。いや、当然だ。こんな突然の怪しい誘いに乗って来るヤツは…
居た。
突然の返信
僕も返信がなかなか無いので半分諦めて、他の誰かを探さないとなぁ。と考えていたある日のこと。僕のmailに返信があった。
Singer RAY の拠点としているstudioで働いている人からだ。
一度会って話したいとのことだ。場所は大阪難波、時間は深夜2時。
行くしかない。
僕は平日の仕事を終え、次の日の仕事のことなんて何も考えずに一度仮眠を取り、難波へと向かった。
ギリギリまで連絡を取り合いながらも、いざ会うとなると「ホンマは騙されてるんちゃうかなぁ?」と半ば疑いながら僕は約束の場所まで向かっていった。
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