いよいよ自然学校本番
自然学校初日、僕は見送りだけで後半からの参加だった。
集合する子どもたちを見ていると何だかワクワクするような気持ちがこっちにまで伝わってくるような気持ちになった。
そして出発した次の日、僕はまだ留守番の日であったが、一本の電話が入った。隣のクラスの先生からだ。
「先生のクラス、どうもキャンプファイヤーで『言葉の力』って歌を歌いたいみたいなんやけどわかる?」
聞くと子どもたちは、クラス全体で取り組むキャンプファイヤーの出し物を決めることでかなり揉めたらしい。
そりゃそうだ、クラス40人全員で何かを決めるなんて意見が上手に話せる子が集まったって難しいものだ。
そんななかある女の子が提案したようだ。
「あの歌を歌おう!」
それに反応し、あとはどんどん意見が固まり、自然学校の思い出を詰め込んだ替え歌にして『言葉の力』を歌うことが決まったそうだ。その後はいつにない協力で歌詞が決まっていったようである。
頭によぎってかすかな『不安』
『言葉の力』は確かに僕も大好きな歌だ。
だが、わずかに僕には『不安』な気持ちもあった。
子どもたちは確かにこれまでになく協力していたのだと思う。
だが、子どもたちのケンカの多くは、頑張ったのに友だちが思うような反応が得られなかった時に起こっていたのだ。
この歌の良さを知っているのは、このクラスのメンバーだけだ。
両隣のクラスはどちらも流行りの曲やよく知られている曲を歌ったり、踊ったりするそうだ。
僕は、予防線を張った。子どもたちを集めて、僕の心配していることを正直に伝えた。
「みんながその歌を選ぼうとしたことはとても嬉しいことや。でも、こういう場面で誰も知らない曲を歌って、みんなが盛り上がってくれるかどうかはわからんで。別にみんなが知っているような曲にしてもええねんで。」
多くの子の眼差しは真剣だった。
そして、子どもたちの何人かの口から、「周りがどんな雰囲気でもいい。自分たちは歌いたい歌を歌ってそれを思い出にする。」という答えが返ってきた。
他の子の何人かも頷いている。その瞬間「あっもうこの子たちに担任なんていらないな。」と感じるような安心感を感じた。
自然学校が終わる
子どもたちにとっていつも『行事』というのは成長のきっかけを作ることが多い。
あの自然学校もきっとそうだったに違いない。
いつもワガママばっかり言っている子、普段は強がっているいる子、とても優しいと感じられる子。宿泊行事ではみんな余裕が消えていく。そして、あの自然学校だってきっと何か子どもたちには残るものがあったに違いない。
子どもたちは、キャンプファイヤーの日に照らされながら、その会場にいる誰も知らない『言葉の力』を精一杯歌っていた。
誰がどう思うかなんて関係無い。
いつも自分が思っていることなのに躊躇した自分が少し恥ずかしかった。
子どもたちは間違い無く『言葉の力』を自分たちの歌にしていた。
少なくとも僕にそう感じさせるようなチカラがそこにはあった。
僕は、この時初めての担任として終える自然学校を温かい気持ちで締めくくった。
もちろんこの時点では、その後に生まれるとんでもない出会いのことなんて想像もしていなかった。
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