きっかけは『道徳』の授業
月日は流れ、11月になった。
当時、僕は教師2年目、5年生のクラスを受け持っていた。
個性の強い40人の子どもたちと毎日楽しく過ごしていたのだが、子どものことなのでそれはもうお互いに毎日のようにケンカも絶えなかった。
追いかけて行っては話をし、また、他の子の話を聞く。決して誰かに一方的に攻撃するのでは無く、みんなが「自分を認めて欲しい‼️」という気持ちに満ちていたように感じた。心は充実した毎日だったが、本当に忙しい日々だった。
だが、この11月には僕たち大人にも、そして子どもたちにとっても大きな行事があったのだ。
兵庫県の取り組みで決められている小学5年生が4泊5日で行う『自然学校』という宿泊行事であった。
子どもによっては小学校生活のなかで最も記憶に残っているような子がいるような行事だったが、この行事には、勤務の関係で担任は分担し、2泊までしか参加出来ないというルールがあった。
毎日のようにケンカを続けるこのクラスで仲裁する者のいない日々、それは、何人かの子どもたちにも、僕にとっても少なからず不安な気持ちを生み出すものだった。
悩むよりも『授業』
ある日僕は、悩んでいても仕方がないと割り切り、この行事に先立って何か他者理解に繋がるような人権授業が作れないものか…と悩み、搾り出そうとした。
ただ、こういう授業というのは頭で考えてすぐにひらめくなんてことはそうそう無いものであった。
だが、ある帰り道の車の中で、僕に一筋の光が差した。
あの『泉州レゲエ祭』で聴いたRAYの『言葉の力』という曲が聴こえて来たのである。
これだ。これしかない。
『言葉の力』という歌は、歌詞の言葉選びがハッキリとしていて小学生にも刺さるメッセージがたくさん散りばめられている。
言葉の力 あなたに届くから
思いを伝える為の 一番の表現法さ
だからこの歌 あなたに届くかな?
仲間と分かり合える 最高の手段さ Yu understand?
これを聴き子どもたちは何を思うだろう。
ある日の事 公園で遊ぶ二人の少年
些細なことが原因で 意地張ってケンカしてる
そしてその別れ際 一人の少年が吐き捨てた
「お前なんか死んじゃえ」 「もう遊ばない」
言われた少年は傷ついてる 言った少年も後悔してるけど
変なプライドが邪魔をしてる どうすればあの日に戻れる
簡単なことさ心からの言葉 あの時は本当にごめんな
二人に笑顔が戻った はい仲直り
毎日子どもと過ごす僕にとって、歌詞の一つひとつが子どもたちの姿と重なった。
僕はこの歌詞を最初に聴いた時、まさしくクラスに居たある女の子2人が浮かんだくらいだ。
「絶対に伝わる!!」
僕の中で思いが固まった。
いざ、授業本番
授業では、自然学校への意気込みから子どもたちの話を広げ、不安なことを聞きながら、僕からのエールとして『言葉の力』を聴き、自分の言葉の力を見直し、これからの使い道にふれるような内容で構成した。
授業後に集めたプリントには、歌の感想よりも、前の学年でしてしまった自分の失敗や今の自分が友だちに伝えられないモヤモヤした自分の想いが書かれていた。そして、一番印象的だったのは、「先生がそんな気持ちでいたのを知って驚き、嬉しくなった。」といった内容だった。
もちろん、学校で紙の上に書くことなんて子どもたちにとっては『キレイゴト』を並べただけかもしれない、心が動いた子どもは全員では無いだろうと思う。
ただ、それでもいい。きっと何人か心にその『想いの種』が蒔かれたと僕には感じられた。
その日はただ、その45分が心地良かった。
ただそれだけの日ではあったが、自然学校へ出発する準備が着々と進んでいったのであった。
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