『具体』の世界を生きるちびっこたち

子ども

 教師という仕事を辞めてからというもの、我が子の姿をかなりゆっくり観察する時間が増えた。すると、新しい発見がたくさんある。
 僕は、何度希望してもなかなか低学年の担任はさせてもらえず教師生活を終えたのだが、(その分、特別支援学級の担任は1年間だけさせてもらってたくさんの視点をもらえたのではあるが…)「やっぱり低学年って面白いなぁ。」ということの連続でもう収入が減った『不安』よりも、長期的に見た時に『転用』できる視点がとてもたくさんあるので嬉しく思っている。
 今日はいくつか我が子の毎日を見ていて気付いたことを記録しておきたい。これを読んだ『教育や子育てに関わる誰か』も参考にしてもらえればと思っている。

1.『具体』こそ彼らの世界

 昨年の休校期間中に我が子は毎日自分で決めた10個のミッションをこなしていた。
 毎日、座って学習する時間はたったの20分だが、これでも何だかんだ言いながら取り組んでいる。
 出された『宿題』は新しい漢字と計算の繰り返しで毎日『あぁぁぁ』とため息を付きながら取り組んでいた。
 
 ある日、「そこまで嫌ならやらなきゃいいやん。もし、それでわからなくなって困ったらその時にやらなきゃいけないことだけは、わかっていればそれでいいんやから。」
 すると息子は「こんな足し算や引き算何の意味があるのか全然わからん。できることを繰り返しやったって面白くないし、疲れるだけ!」
 (恐らく半分以上言い訳だが、面白いのでさらに聞いてみる。)
 「だってさ、実際の生活に役立てるならさ、考えたり悩んだりしなきゃいけないやん。それなら文章の問題をいっぱい並べる方が役に立つし面白いやん。」
 「それじゃあお金の計算だと思ってやれば…」「23+35=は、23円+35円とか」
 「それなら58円ってすぐわかるし役に立つな!!
 (単純やな…)
 いやいや待て息子。お前は一応学習内容的にはまだ23+35はやっていないはず。実際の生活ではもうそこまでわかってきてるのか…

2.『具体』と『抽象』の架け橋

 このやり取りをしていて「あぁやっぱり低学年って面白い!」と再確認した。
 僕らは、『勉強』と『生活』をついついどこかで分断してしまいがちだ。確かに僕の生活の中で被子植物と裸子植物を区別したり、飛鳥時代と奈良時代の違いを感じながら生きたりはしていない。
 その辺りから無理やり『勉強』の必要性を高めて『生活』に結び付けている節があるが、きっとそこが多くの子どもたちへの『勉強嫌い』を作ってしまっているのかもしれない。
 ただ、国はもうとっくの昔からそんなことわかっていて『生活科』という教科を生み出したり、低学年の『体育』に運動遊びと位置付けている。

 僕たち大人はついつい子どもを『できる子・わかる子』に育てようとしてしまう。無駄な部分はどんどん『シンプル』に作り替え『具体の無い抽象の世界』を作り出してしまっているのだと思う。

 うちの子は毎日体温を計る時に時計を読んでいるうちに時計がはっきりと読めるようになってきた。学習上は習ったことでもまだ身に付いてはいなかったようだ。
 僕ら『教育者』に必要な作業は、いかに子どもが気付かぬうちに『具体』と『抽象』の世界をつないでやることなんだなと理解ができた。
 人とのやり取りが子どもの成長に繋がるというのはまさに正解だなと感じたし、そのベースをきちんと具現化しないといけないなと感じて作り出した家庭学習応援施設MyPlaceの方向性にも少し自信が湧いてきた。

3.困るのは、やはり『具体』の手数の減少

 世の中には、オンライン授業やオンライン教材が溢れている。教材の質もどんどんアップしているのでインターネットがあればもう困らないかと言えばそうでもない。
 1年前の休校中インターネットの世界を流れている意見を眺めると「宿題だけじゃ不安」「授業が進まない」「うちの自治体は何も用意していない!」という不満が溢れていた。けれど、『知識』や『授業』はこれだけ溢れているのだから、少し自分から動いてアップしているのを使っていれば学習指導要領は同じなんだからその『不安』はすぐにでも解決できる。
 ただ、休校で『教育』が止まることのダメージはもっと他のことだと僕は思っている。
 家の中の世界というのは本当に『具体』の手数が減ってしまう。
 色々な経験、色々な関わりの『具体』がふと『学び』に変わるようなやり取りが大切なのだが、自宅学習だけでは限界があるな改めて感じている。
 さらに言えば、そういう『やり取り』だとか一見大人から見ると『無駄な寄り道』のようなちびっこたちの『具体』を拾いあげるような『学び』を作り出す機能の無い学校なら行く意味はもう無くなってしまうのではないかなと思う。
 これからも世の中は変わってくるだろう。『学校』の必要性や『教育』の意味をきちんと捉え直して僕ら大人も進んで行かなくてはいけないなと思っている。

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